賃貸のフローリングの傷は退去費用がいくら?借主負担の線引き

賃貸のフローリングの傷の退去費用は、家具の跡や日焼けなら0円、物を落とした傷や引きずり傷は借主負担が出発点です。国土交通省の原状回復ガイドラインでは、部分補修は㎡単位で経過年数を考慮せず、全面張替えだけ建物の耐用年数(木造22年・鉄筋コンクリート47年)で減額します。

この記事でわかること

  • フローリングの傷のうち借主が払う傷と払わない傷(ガイドライン別表1と民法621条)
  • 「傷だらけ」でも補修は㎡単位、色合わせは借主負担にしないという施工単位の決まり
  • 退去費用と年数の関係。部分補修は経過年数を考慮しない理由と、全面張替えの計算式
  • 相場が無い理由と、請求書を検算する7項目(国民生活センターの相談事例つき)
  • 「傷は借主が全額負担」の特約が有効になる3要件と消費者契約法10条
  • ペット・キャスター・水こぼしの判定と、入居時の写真が無いときにできること

出典: 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」/民法(e-Gov法令検索)/消費者契約法(e-Gov法令検索)/国民生活センター「賃貸住宅の『原状回復』トラブルにご注意」(2023年2月1日)

目次

賃貸のフローリングの傷で退去費用がかかるのはどんな傷か。通常損耗と借主負担の線引き

フローリングの傷の退去費用とは、借主の不注意で付いた傷を直す費用のうち、借主が負担する部分のことです。普通に住んでいて付く傷は、家賃に含まれているものとして貸主が持つ決まりです。

根拠は民法621条にあります。借主が原状に戻すのは「賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷」で、そこから通常の使用による損耗と経年変化は除かれると書かれています。借主の責任でない損傷も対象外です。

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」は、この条文を部位ごとに具体化した文書です。別表1の「床」の欄は、傷を次の3つに分けています。

  • A=普通に住んでいても起きるもの(貸主負担)
  • B=借主の住まい方次第で起きたり起きなかったりするもの(借主負担)
  • A(+B)=普通に起きるが、その後の手入れが悪くて広がったもの(広がった分は借主負担)

フローリングの傷の負担区分(国交省ガイドライン別表1・床の欄と建具の欄から)

傷・汚れの種類負担ガイドラインの考え方
家具を置いたことによるへこみ・設置跡貸主家具の多い日本の実状では設置は必然で、へこみは通常の損耗
日照による色落ち・日焼け貸主日照は通常の生活で避けられない
雨漏りによる色落ち(建物の欠陥)貸主借主に責任は無い(貸主への通知を怠った場合を除く)
フローリングのワックスがけ貸主物件の維持管理の意味合いが強い
引越し作業で付いた引っかき傷借主通常の使用による結果とは言えない
不注意で雨を吹き込ませた色落ち借主善管注意義務違反にあたる場合が多い
冷蔵庫の下のサビ跡(放置したもの)借主拭けば落ちる程度は通常の範囲。放置して床を汚損した分は借主
こぼした飲み物を放置したシミ・カビ借主こぼすこと自体は通常の生活。手入れ不足で生じたシミの除去は借主
ペットの引っかき傷・臭い借主柱やクロスの例示と同じで、用法違反と判断される場合が多い

表の右列は、どれも「傷の原因」と「その後の手入れ」で分けています。借主に課されるのは、民法400条の「善良な管理者の注意」を払って使う義務です。ガイドラインのQ10は、飲み物をこぼしたまま放置する、結露を放置するといった行為を、この義務の違反として挙げています。

ガイドラインに名前が無い傷の見方。キャスター・物を落としたへこみ・ワックスの剥がれ

キャスター付きの椅子で付く細かい擦り傷は、別表1に名指しの例がありません。近いのは「家具の設置による跡」と「引越し作業の引っかき傷」で、前者は貸主、後者は借主です。

分かれ目は、置いただけで付いたか、動かして付けたかにあります。椅子を毎日転がして床の塗装が剥げるまで擦れた状態は、設置跡とは言えません。表面の細かい擦れで色が残っているなら、通常の損耗の側で争えます。

退去の立会いに同席してきた範囲では、チェアマットを敷いていたかどうかで、管理会社の見方が変わることが多かったです。

物を落として付いたへこみや割れは、借主負担の側に入ります。ガイドラインが「通常の住まい方」として想定するのは、日照・家具の設置・掃除で落ちる汚れまでです。

ワックスの剥がれや細かい擦れは、年数が経てばどの部屋でも起きます。別表1でワックスがけが貸主負担とされている以上、剥がれの補修だけを借主に求める根拠は薄いと考えられます。

フローリングの傷は「原因」と「その後の手入れ」で借主負担が決まる

貸主負担(通常損耗・経年変化)
家具を置いたへこみ・設置跡
置いただけで付く。ガイドライン別表1のA
日焼け・日照の色落ち
日照は避けられない。建物の欠陥による雨漏りも同じ
ワックスの剥がれ・細かい擦れ
ワックスがけ自体が貸主負担の維持管理
入居時からあった傷
民法621条は「受け取った後に生じた損傷」だけを対象にする
借主負担(善管注意義務違反)
物を落としたへこみ・割れ
通常の住まい方で起きるとは言えない
引越し・家具の引きずり傷
別表1の「引越作業等で生じた引っかきキズ」
水こぼし・冷蔵庫下のサビの放置
こぼすのは通常。放置して広げた分がA(+B)で借主
ペットの引っかき傷・臭い
用法違反と判断される場合が多い

図:置いただけ・日照・年数で起きる傷は貸主、落とした・引きずった・放置したで起きた傷は借主。境目は「手入れで防げたか」。

傷だらけでも全面張替えの全額にはならない。補修は㎡単位で、色合わせは借主負担にしない

フローリングが傷だらけでも、借主が払うのは傷の部分を直す費用までです。ガイドラインは、原状回復を「毀損部分の復旧」と位置づけ、補修工事が可能な最低限度を施工単位にするとしています。

別表2の床の欄では、フローリングの負担単位を「原則㎡単位」と定めています。傷が複数の箇所にあるときは居室全体が単位になり得ますが、そこにも条件が2つ付いていました。

  • 可能な限り毀損部分の補修費用に限定する
  • いわゆる模様あわせ、色あわせについては、賃借人の負担とはしない

この2行目が、請求書を見るときに一番効きます。「補修すると色が合わないので全面張替え」という説明は現場でよく聞きますが、色を合わせるための張替え分は借主に回せないのがガイドラインの立場です。

6枚分15万円の請求が2枚分5万円になった裁判例

ガイドラインが掲載する裁判事例35(東京地方裁判所 平成21年7月22日判決)は、この施工単位の考え方がそのまま出た例です。貸主は敷金51万3,000円から、フローリングの補修張替え6枚分15万円を含む合計46万110円を差し引くと主張しました。

一審の東京簡易裁判所は、フローリングについて2枚分の5万円だけを借主負担と認めました。

貸主が「6枚分の全部を認めるべきだ」と控訴した東京地裁も、認定した範囲を超えて借主が負担すべきとは認められないとして控訴を棄却しています。クロスの張替えも半額の2万円にとどまり、敷金43万5,510円の返還が命じられました。

傷の枚数と張り替える枚数は別だ、という判断です。請求書に「フローリング張替え ○㎡」とあったら、傷が実際に何㎡にあるのかを先に数えてください。

1㎡でも単価が高くなるのは、ガイドライン自身が認めている

面積を絞れても、単価には手が出しにくい部分があります。ガイドラインの資料編には、フローリングの部材は坪単位で売られると注記があります。1㎡の補修でも余分に部材を買うことになり、新築時より原状回復時の価格が高くなるのが一般的だ、という説明です。

つまり、㎡単価が新築の見積より高いこと自体は不当とは言えません。争う軸は単価より、面積(毀損部分だけか)と経過年数(次章)に置いた方が通ります。

「一面分までは張り替えてもやむを得ない」という言い方を聞くことがありますが、ガイドラインのQ7でそう書かれているのはクロスの話です。フローリングは別表2で「最低㎡単位」とされており、壁と同じ扱いにはなりません。

退去費用と年数の関係。部分補修は経過年数を考慮せず、全面張替えは建物の耐用年数で減る

フローリングの退去費用と年数の関係は、補修の仕方で正反対になります。部分補修は何年住んでいても減額されず、全面張替えは建物の耐用年数に応じて減額されるのがガイドラインの原則です。

クロスやカーペットは、6年で残存価値1円になる直線で借主の負担割合を下げます。長く住むほど負担が減る仕組みですが、フローリングの部分補修には、この考え方が入っていません。

部分補修に年数が効かない理由は「つぎはぎ」

ガイドラインは理由をはっきり書いています。フローリングは建物と同じくらい長く使える部位で、部分的に直しても、いずれ全体を張り替えるのが一般的です。部分補修をしても、つぎはぎの状態になるだけで、フローリング全体の価値が上がったとは評価できないとされています。

だから、部分補修の費用を借主が全額払っても、貸主がその時点のフローリングの価値を超えて得をすることにはなりません。逆に、形式的に経過年数を掛けると、価値が変わらないのに貸主が費用を負う不合理が生じます。ガイドラインはこの理屈で、部分補修は経過年数を考慮しないと結論づけました。

一方で、フローリング全体にわたる毀損で全体を張り替える場合は、経過年数を考慮するのが適当だと明記されています。全面張替えなら、貸主は古い床が新しい床に替わる利益を得るからです。

床材ごとの負担単位と経過年数の扱い(国交省ガイドライン別表2・2026年9月時点)

床材・補修の仕方負担単位経過年数の扱い
フローリング(部分補修)原則㎡単位考慮しない
フローリング(全面張替え)居室全体建物の耐用年数で残存価値1円
カーペット・クッションフロア複数箇所なら居室全体6年で残存価値1円
畳表原則1枚単位考慮しない(消耗品)
畳床原則1枚単位6年で残存価値1円

全面張替えの計算式。効くのは入居年数だけでなく築年数

全面張替えの経過年数は、その建物の耐用年数を分母にします。ガイドラインが参考資料に載せる「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」では、住宅用の建物は木造22年、鉄筋コンクリート造47年です。鉄骨造は骨格材の厚さで19年・27年・34年に分かれます。

計算の型は次のとおりです。

借主の負担割合 =(耐用年数 − 経過年数)÷ 耐用年数
借主が払う額 = 全面張替え費用 × 負担割合

ここで見落とされやすいのが「経過年数」の起点です。ガイドラインは、設備の交換履歴を貸主が把握していないことが多いため、経過年数のグラフを入居年数で代替する方式を採っています。ただし、入居時点の床が新品とは限らないので、その状態に合わせてグラフを下方にシフトさせると書いています。

新築や張替え直後に入居したなら、起点は100%です。築15年の部屋に入居して床がそのままなら、起点はすでに下がっています。起点をどこに置くかは、契約当事者が確認のうえ協議して決めるものとされ、下限は1円です。

数字を入れて型を確かめます。全面張替えの見積が10万円だった場合の例です。

  • 木造・築15年で入居・3年住んで退去 → 経過18年 →(22−18)÷22=約18% → 約1万8,000円
  • 鉄筋コンクリート造・築5年で入居・5年住んで退去 → 経過10年 →(47−10)÷47=約79% → 約7万9,000円
  • 木造・築22年以上 → 残存価値1円 → 借主負担は最低1円

同じ5年住んだ人でも、建物の構造と築年数で負担は大きく変わります。見積の金額そのものは物件ごとに違うため、ここでは計算の型だけを示しています。

長く住めば全部消えるわけではない。11年入居でも認められた18万4,000円

経過年数を超えた床でも、借主の責任が0になるとは限りません。ガイドラインは、耐用年数を超えた設備でも使える状態であれば、故意・過失で壊した場合は本来機能していた状態まで戻す費用が借主負担になり得る、と注意しています。

裁判事例39(東京地方裁判所 平成22年2月2日判決)は、11年入居した区民住宅の退去をめぐる争いです。

バルコニー出入口前のフローリング材の剥がれ18万4,000円を含む損傷について、借主は「11年の入居で通常の使用により発生した損耗だ」と主張しました。

裁判所は、証拠に照らせばいずれも通常の使用によって生じたものとは言えない、として借主の主張を退けています。

「年数」は減額の根拠にはなりますが、傷の原因が借主にあるかどうかの判断とは別です。年数を言う前に、まず通常損耗かどうかの線引きを済ませます。

フローリングの傷の退去費用を出す順番

  • 請求書の金額をそのまま受け取らず、次の順に絞る
  • 1入居時からあった傷か入居時の確認リスト・写真と照合。あった傷は民法621条の対象外
  • 2通常損耗か、借主の責任か家具の跡・日焼け・ワックス剥がれは貸主。落下・引きずり・放置は借主(別表1)
  • 3部分補修か、全面張替えか原則㎡単位。色合わせ分は借主負担にしない(別表2)
  • 4経過年数を掛ける部分補修は掛けない。全面張替えは建物の耐用年数で、起点は入居時の床の状態
  • 5特約があるか3要件を満たす特約だけが上書きできる。消費者契約法10条で争える

1〜4で残った額が、特約が無いときの借主負担。5で特約の有効性を確かめる

図:入居時の傷→通常損耗→施工単位→経過年数→特約の順に絞ると、請求額の根拠が見える。

フローリングの傷の退去費用はいくらになるか。相場を探すより請求書を検算する

フローリングの傷の退去費用がいくらになるかは、部屋ごとに違います。公的な相場の統計は無く、ガイドラインのQ13も「使用する資材や施工方法により物件ごとに異なる」という答えでした。

同じQ13には、借主に有利な2点も書かれています。単価には材料費だけでなく施工費(労賃)が含まれていることが多いこと、そして高級品へのグレードアップ分は借主が負担する必要がないことです。

相場の数字を探す時間は、請求書の検算に回した方が戻る額が増えます。国民生活センターへの原状回復の相談は毎年1万3,000〜4,000件です(2023年2月1日の報道発表・PIO-NET)。内容は「想定より高額」「普通に生活していて付いた傷」「入居前からあった傷」に集中しています。

国民生活センターの相談事例。2年居住でフローリング修復代約2万円

同じ報道発表の事例1は、フローリングの請求がどう来るかを示しています。2年住んだ1LDK(家賃5万円・敷金礼金0円)を退去した30代男性に、合計10万円超の請求書が届きました。内訳はハウスクリーニング代約5万円、鍵交換代約1万円、クロス修復代約1万円、フローリング修復代約2万円などです。

この相談者は、フローリングには入居時に複数のキズがあったと述べています。入居時の傷を示せれば、その分は621条の対象から外れます。2万円という数字が高いか安いかを相場で判断するより、「どの傷を、何㎡直した費用か」を確かめる方が先です。

フローリングの請求書を検算する7項目(根拠はガイドライン)

見る欄確かめること根拠
部位・面積傷のある箇所の㎡か、部屋全体か別表2「原則㎡単位」
単価材工込みか。坪単位の部材ロスが理由なら説明を求めるQ13・資料の注記
部分か全面か全面なら経過年数の割合が掛かっているか別表2
経過年数の起点入居年数だけで計算していないか。築年数・床の交換履歴を聞く第1章Ⅱ3(2)②(図4)
色合わせ・グレード色合わせ分・高級材への変更分が入っていないか別表2・Q13
入居時の傷確認リスト・写真と照合し、あった傷を外すQ1・民法621条
明細の有無内訳が無ければ明細と説明を求めるQ17

Q17は、貸主には敷金から差し引く原状回復費用の説明義務があり、借主は明細を請求して説明を求めることができる、と答えています。明細が来ないうちは、金額の妥当性を判断しようがありません。

東京都なら契約時の説明書面と照合する

東京都の物件では、賃貸住宅紛争防止条例により、宅地建物取引業者が重要事項説明に併せて書面で4点を説明しています。退去時の復旧方法、入居中の修繕の原則、契約における借主の負担内容、修繕などの連絡先です。

この書面には、通常損耗が貸主負担であることと、特約で借主負担になる項目が書かれています。請求書とこの書面を並べれば、契約時に聞いていない負担が退去時に増えていないかを確かめられます。話し合いで進まないときは、東京都の賃貸ホットライン(03-5320-4958)が相談先です。

請求書が届いてから返事をするまで

  • その場でサインや振込をせず、書面で根拠を揃えてから答える
  • 1明細を求める部位・㎡・単価・工事内容が無ければ、Q17を根拠に明細と説明を書面で依頼
  • 2入居時の記録と照合確認リスト・写真・入居直後のメールで、あった傷を外す
  • 3別表1で区分家具跡・日焼け・ワックス剥がれを外し、落下・引きずり・放置だけ残す
  • 4面積と年数を検算㎡単位か。全面なら建物の耐用年数と起点。色合わせ分を外す
  • 5減額案を書面で返す根拠(別表・条文・裁判例)を添えて。進まなければ消費生活センター・賃貸ホットライン

敷金から引かれた後に返還を求める手順は、敷金返還の記事で扱っている

図:明細→入居時の記録→別表1→面積と年数→書面で返答。口頭で金額を詰めない。

減額が通らず敷金から差し引かれた後に取り戻す手順は、敷金が返金されない時の請求方法で内容証明の文例まで扱っています。クロスや清掃などフローリング以外の項目は、退去費用の相場の項目表で確認してください。

「フローリングの傷は借主が全額負担」の特約は有効か。3要件と消費者契約法10条

契約書に「フローリングの傷は経過年数にかかわらず借主が全額負担する」といった特約があっても、そのまま有効になるとは限りません。ガイドラインは、通常の原状回復義務を超える負担を借主に課す特約に、次の3つの要件を求めています。

  1. 特約の必要性があり、かつ暴利的でないなど客観的・合理的な理由があること
  2. 借主が、特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕義務を負うことを認識していること
  3. 借主が特約による義務負担の意思表示をしていること

根拠として引かれているのが最高裁判所の判決(平成17年12月16日)です。

通常損耗の補修費用は家賃に含めて回収されているのが通常だ、というのが前提です。借主にその原状回復義務を負わせるには、負担する通常損耗の範囲が契約書の条項に具体的に明記されているか、口頭で説明され借主が明確に認識して合意したことが必要だと判断しました。

消費者契約法10条も重なります。任意規定と比べて消費者の義務を加重する条項で、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものは無効です。民法621条が通常損耗を除いているのに、特約で通常損耗まで借主に負わせる条項は、この条文で争う対象になります。

特約の型ごとの見方

フローリングに関わる特約の型と有効性の見方(居住用・個人契約)

特約の書き方の例有効性の見方根拠
「傷の有無にかかわらず退去時にフローリングを全面張替えし費用は借主負担」通常損耗まで借主に負わせる型。要件1〜3を満たさなければ争える最高裁H17.12.16・消費者契約法10条
「フローリングの補修費用は経過年数を考慮せず借主負担」部分補修なら元々考慮しないので影響は小さい。全面張替えに及ぶなら10条の議論別表2・10条
「ペット飼育を認める代わりに床・クロスの張替え費用を借主負担」ガイドラインが「例外としての特約」の例に挙げる型。必要性が説明しやすい第1章Ⅰ2
「フローリング補修 1㎡あたり○円」と単価を明示ガイドラインが勧める形。単価が示されていれば要件3の裏付けになる第1章Ⅰ2(2)

3行目のペット可の特約は、ペットの傷が元々借主負担であることの延長です。ペット可の物件でも、傷や臭いを付けてよい契約ではありません。

ガイドラインの裁判事例18(東京簡易裁判所)では、ペット飼育可の貸室で消毒に代わるクリーニング費用が借主負担と認められています。ペット可の物件では、契約時に敷金の上乗せや償却が付くことも多いので、特約欄と敷金の条件をセットで読んでください。

特約が書かれる場所は、契約書本文の原状回復条項か、末尾の特約欄のどちらかです。サイン前に読むのはこの2か所になります。

入居時の写真が無いとき、退去前にできること。自分で直す・火災保険・立会いの伝え方

入居時の記録があれば、この記事の検算は半分終わっています。無い場合でも、退去前にできることは残っているので、順に並べます。

自分で補修キットで直すのは、貸主の了解を取ってから

傷を隠すために市販の補修キットで埋めるのは、了解なしにはやらない方が安全です。民法606条で修繕の義務は貸主側にあり、素人補修で色が合わなかったり周囲まで削ったりすると、毀損の範囲が広がって㎡が増える方向に働きます。

やるなら、管理会社に「この箇所を自分で補修してよいか」を書面で確かめてからです。了解が出れば、退去時の請求から外れる可能性があります。断られたら、そのままにして立会いで申告する方が結果は安定するでしょう。

火災保険の借家人賠償・個人賠償は約款で範囲が違う

賃貸で加入する火災保険には、借家人賠償責任の補償が付いています。物を落として床を割ったような「不測かつ突発的な事故」を対象に含める商品もありますが、火災・破裂・水濡れに限る約款も多く、経年の擦り傷は対象になりません。

請求書が来たら、支払う前に保険会社へ事故の日時と状況を伝えて確認してください。補償の範囲と保険料の考え方は賃貸の火災保険の相場で整理しています。

記録の代わりになるもの、立会いでやること

入居時の写真が無くても、次のものは傷が前からあった証拠になり得ます。

  • 管理会社から渡された入居時チェックシートの控え(提出していれば管理会社側に原本が残っています)
  • 入居直後に管理会社へ送ったメールや、修繕を依頼した記録(民法615条の通知義務を果たした証拠にもなります)
  • 引越し業者の搬入時の写真や、家具を置く前に撮った部屋の写真
  • 前の入居者の退去時に張り替えていないことを示す、募集時の室内写真

退去の立会いでは、指摘された傷をその場で1つずつ写真に撮り、金額の書かれた書面にはサインしません。「見ました」と「払います」は別の署名で、金額の合意は明細を検算してから書面で返す形にします。ガイドラインも、退去時に借主が立ち会って状況を確認し、書面を残すよう勧める立場でした。

退去前に掃除で減らせる費用と減らせない費用の線引きは退去の掃除はどこまでやるかで部位ごとに分けています。床の場合、拭いて落ちる汚れは落としてから立会いに臨む方が、A(+B)の「放置」と見られる余地を減らせます。

よくある質問

Q1:賃貸のフローリングが傷だらけです。退去費用はいくらになりますか?

傷のある箇所の㎡分の補修費用が出発点で、部屋全体の張替え費用にはなりません。ガイドライン別表2はフローリングの負担単位を原則㎡単位とし、色合わせ・模様合わせの分は借主負担にしないとしています。東京地裁の裁判例(平成21年7月22日)では、6枚分15万円の請求が2枚分5万円に絞られました。金額は物件ごとに違うので、請求書の㎡と単価を明細で確かめます。

Q2:10年住みました。フローリングの傷の退去費用は年数で安くなりますか?

部分補修なら年数では安くなりません。ガイドラインは、フローリングの部分補修は経過年数を考慮しないとしています。全面張替えになる場合だけ、建物の耐用年数(木造22年・鉄筋コンクリート47年)で残存価値を計算し、借主の負担割合が下がります。ただし、傷の原因が借主にある限り、11年入居でも通常損耗とは認められなかった裁判例(東京地裁 平成22年2月2日)があります。

Q3:キャスター付きの椅子でフローリングに細かい傷が付きました。払う必要がありますか?

置いただけの跡なら貸主負担、転がして塗装が剥げるまで擦れたなら借主負担の側です。ガイドライン別表1は「家具の設置による跡」を貸主負担、「引越作業等の引っかきキズ」を借主負担としており、キャスター傷はその間で判断されます。表面の擦れで色が残っている程度なら、通常損耗として争えます。チェアマットを敷いていたかどうかも聞かれます。

Q4:ペット可の物件です。犬の引っかき傷は退去費用に入りますか?

入ります。ガイドライン別表1は、飼育ペットによる柱やクロスの傷・臭いを借主負担の例に挙げており、ペット可でも傷を付けてよい契約ではありません。「ペット飼育を認める代わりに張替え費用を負担する」という特約は、ガイドラインが想定する例外の特約の型です。負担額は他の傷と同じく、㎡単位と経過年数(全面張替えの場合)で計算します。

Q5:フローリングの傷を退去時に自分で補修キットで直してもいいですか?

管理会社の了解を書面で取ってからにします。民法606条で修繕の義務は貸主側にあり、了解なしの補修で色が合わなかったり周囲を傷めたりすると、毀損の範囲が広がります。了解が出れば請求から外れる可能性があります。断られたら、そのままにして立会いで申告する方が安定します。

Q6:入居時の写真がありません。入居時からあった傷だと示す方法はありますか?

管理会社の入居時チェックシートの控え、入居直後に送ったメール、引越し業者の搬入時の写真、募集時の室内写真が代わりになります。民法621条が対象にするのは「受け取った後に生じた損傷」なので、前からあったことを示せた傷は外れます。示せない傷でも、家具跡・日焼け・ワックス剥がれは別表1で貸主負担なので、原因の区分で争えます。

まとめ

  • 借主が払うのは受け取った後に自分の責任で付けた傷だけ(民法621条)。家具跡・日焼け・ワックス剥がれは貸主負担、落下・引きずり・放置・ペットは借主負担(別表1)
  • 傷だらけでも補修は原則㎡単位。色合わせ・模様合わせは借主負担にしない(別表2)。6枚分15万円の請求が2枚分5万円になった裁判例(東京地裁H21.7.22)
  • 部分補修は経過年数を考慮しない(つぎはぎで価値が上がらないため)。全面張替えは建物の耐用年数(木造22年・RC47年)で減額し、起点は入居時の床の状態
  • 相場の統計は無い。請求書を7項目で検算し、明細が無ければQ17を根拠に求める。原状回復の相談は年1万3,000〜4,000件(国民生活センター)
  • 「全額借主負担」の特約は3要件(必要性・認識・意思表示)と最高裁H17.12.16、消費者契約法10条で争える
  • 自分で直すのは貸主の了解を取ってから。借家人賠償は約款で範囲が違う。立会いでは金額の書面にサインしない

請求書が届いたら、傷の場所を㎡で数え、部分補修か全面張替えかを分け、全面なら建物の構造と築年数を聞く。ここまで確かめれば、フローリングの傷の退去費用は「払う分」と「外せる分」に分かれます。退去費用の他の項目は退去費用の相場で、敷金から引かれた後の取り戻し方は敷金が返金されない時の請求方法で確認してください。

免責事項

※本記事は民法・消費者契約法の条文、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」とそこに掲載された裁判事例の要旨、国民生活センターの報道発表、東京都「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」(2026年9月時点)と不動産仲介の現場で見てきた事例をもとに整理した一般的な情報です。補修費用の額・特約の有効性は個々の契約書と物件の状態により異なります。個別の契約判断・法律相談は宅地建物取引士・弁護士・消費生活センター等の有資格者・公的窓口にご相談ください。

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この記事を書いた人

Ishidaです。地方都市の不動産仲介会社で営業アシスタントを10年務め、店長や主任の物件案内と契約立会いに同席しながら、年間1,500件を超える部屋を見送ってきました。

いちばん記憶に残っているのは、退去のときに高額な原状回復費を請求されて揉めるケースです。その多くは、契約の際に重要事項説明を聞き流していた方でした。逆に、最初にひと言確認しておくだけで防げたトラブルも数えきれません。

自分自身も7回引っ越し、そのたびに見積もりや初期費用の相場を体で覚えました。現場で見てきたことと、借り手として直面した実感の両方から、後悔しない部屋探しと引越しを整理しています。契約前の疑問は、遠慮なく不動産会社に確かめてくださいね。

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