賃貸のカビの退去費用は、普通に暮らしていて出た分なら貸主の負担です。借主が払うのは、結露を知らせず拭き取りもせずに広げた分や、風呂の掃除を怠って付いたカビです。壁紙は6年で価値1円まで下がる計算になります。
この記事でわかること
- カビの退去費用を貸主が払う場合、借主が払う場合
- 結露のカビが借主の負担になる2つの条件
- 風呂・壁紙・窓枠・フローリングの部位別の線引き
- 裁判で認められた金額と、認められなかった請求
- 長く住んだ部屋で年数が効く部分と効かない部分
- カビを見つけたとき、請求書が届いたときにやること
出典: 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」/民法(e-Gov法令検索)。本文のページ番号は冊子に印刷された番号です(PDFビューアーの表示は4ページ多くなります)。
賃貸のカビは退去費用になるか
普通に暮らしていて出たカビは、原則として貸主の負担です。借主が払うのは、カビに気づいてからの手入れが悪く、広げてしまった分になります。
民法621条は、通常の使い方でできた損耗と経年変化を、借主が元に戻す範囲から外しています。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(以下、ガイドライン)も同じ考え方です。
ガイドラインは傷みを3つに分けています(10〜11ページ)。カビの多くは、このうち「A(+B)」に入ります。
- A:普通に暮らしていても出る傷み(貸主の負担)
- B:使い方しだいで出たり出なかったりする傷み(借主の負担)
- A(+B):基本はAだが、その後の手入れが悪く、出たり広がったりした傷み(広げた分は借主の負担)
つまり、カビがあること自体では借主の負担になりません。「手入れが悪くて広がったか」が分かれ目です。
カビの状態と、費用を払う人
| カビの状態 | 払う人 | ガイドラインの該当箇所 |
|---|---|---|
| 建物の造りが原因の結露で出たカビ | 貸主 | 別表1・壁(18ページ) |
| 雨漏りなど建物の欠陥で出たカビ | 貸主(借主が知らせなかった場合を除く) | 別表1・床の考え方(17ページ) |
| 入居前からあったカビ | 貸主 | 民法621条、原状回復の定義(8ページ) |
| 結露を知らせず、拭き取りもせず広げたカビ・シミ | 借主 | 別表1・壁(18ページ)、別表3(25ページ) |
| 掃除を怠って付いた風呂・トイレ・洗面台のカビ | 借主 | 別表1・設備(21ページ) |
| こぼした飲み物を放置してできたカーペットのカビ | 借主 | 別表1・床(17ページ) |
ガイドラインのQ10(41ページ)は、借主の注意義務(善管注意義務)を説明しています。普段の掃除を怠り、特別な清掃でないと落ちないカビを付けた場合は、この義務に反するとしています。
結露のカビは誰の責任か
結露は、建物の造りが原因であることが多いとガイドラインは書いています(18ページ)。窓の断熱や壁の構造で決まる部分が大きく、住む人だけでは止めにくいためです。
借主の負担になるのは、次の2つが両方そろったときです。別表3(25ページ)は「賃貸人に通知もせず、かつ、拭き取るなどの手入れを怠り、壁等を腐食させた場合」と書いています。
- 結露やカビを、貸主・管理会社に知らせなかった
- 拭き取りなどの手入れもしなかった
知らせていた、または拭いていたなら、この条件には当たりません。窓の結露を毎朝拭いていた人に、壁のカビの張替え代を全部負わせる理由はないということです。
知らせる義務と、直す義務
借りている部屋に修繕が必要になったら、借主は遅滞なく貸主に知らせる決まりがあります(民法615条)。国土交通省の賃貸住宅標準契約書も、第9条3項で同じ通知を求めています。
一方で、部屋を使えるように直す義務は貸主にあります(民法606条)。結露がひどくてカビが止まらないなら、知らせたうえで換気設備の点検や修繕を頼むことができます。
カビの退去費用を請求されたときの判定
- 退去時にカビの除去・張替え費用を請求された
- 1カビの原因を確かめる建物の造りによる結露・雨漏り・入居前からのカビなら貸主の負担
- 2知らせたか、拭いていたかを思い出す通知も手入れもせずに広げた場合だけ借主の負担(別表3・25ページ)
- 3部位ごとの年数を当てはめる壁紙は6年で価値1円。掃除の費用は年数で減らない
- 4明細と特約を確かめる張替えの範囲が広すぎないか、特約に部位と金額が書いてあるか
カビは基本が貸主の負担。手入れが悪く広げた分だけを借主が払う
図:カビの請求は、原因→通知と手入れ→年数→明細と特約の順に確かめる。
部位別に見るカビの負担(風呂・壁紙・窓枠・フローリング)
同じカビでも、部位によって「誰が払うか」と「年数で安くなるか」が変わります。先に一覧で見てから、部位ごとに説明します。
部位ごとのカビの扱い(ガイドライン別表1・2)
| 部位 | 借主の負担になる場合 | 住んだ年数の扱い |
|---|---|---|
| 風呂・トイレ・洗面台 | 掃除や手入れを怠ってカビ・水垢が付いた | 清掃費は年数で減らない。浴槽・洗面台の交換は建物の耐用年数で減る |
| 壁紙(クロス) | 結露を知らせず拭かずに広げた | 6年で価値1円 |
| 窓枠・サッシ | 別表に項目なし。結露の考え方を当てはめる | 部材による |
| フローリング | こぼした水や結露を放置して黒ずませた | 部分補修は年数を考えない。全面張替えは建物の耐用年数 |
| カーペット・クッションフロア | 飲み物をこぼして手入れせずカビが出た | 6年で価値1円 |
風呂・洗面所・トイレ
風呂・トイレ・洗面台の水垢やカビは、掃除や手入れを怠った結果なら借主の負担です(別表1・21ページ)。別表2(24ページ)は、借主がする普段の掃除に「水回り清掃」を入れています。
ただし、普段の掃除をしていたなら、退去後の専門業者による全体のクリーニングは貸主の負担です(21ページ)。次の入居者のために浴槽や風呂釜を取り替える費用も、貸主が払います。
浴槽やユニットバス、洗面台を傷めて交換するときは、建物の耐用年数で借主の負担が減ります(24ページ)。一方、掃除をしなかった分のクリーニング費は年数で減りません。
現場では、目地のゴム(コーキング)の奥まで入った黒カビが退去時に揉めやすい箇所です。退去前に一度、浴室用の洗剤で落ちるかを試し、落ちない部分は写真を残しておくと説明がしやすくなります。
壁紙(クロス)
壁紙のカビで借主が払うのは、結露を知らせず、拭き取りもせずに広げた場合です(18ページ)。家具の裏など、気づきにくい場所のカビもこの考え方で判断します。
払う場合でも、壁紙は6年で価値が1円になる計算で負担が下がります(23ページ)。範囲は㎡単位が望ましく、カビのある面を含む一面分までが限度とされています。
壁紙の張替え費用の計算は、退去時のクロス張替え費用で年数ごとの例を載せています。
窓枠・サッシ
ガイドラインの別表には「窓枠」という項目がありません。窓まわりのカビは結露から出ることがほとんどなので、壁と同じく「知らせたか、拭いていたか」で考えます。
裁判例には、和室の窓のカビ防止シールを剥がす費用1,050円を借主が負担した例があります(事例26・92ページ)。借主自身が支払いを認めた費用でした。窓に自分で貼った物は、はがす費用まで借主が持つと考えておくと安全です。
サッシのゴムパッキンのカビは、拭き掃除で落ちる範囲なら普段の掃除の話です。木の窓枠が腐るほど放置したときは、別表3の「壁等を腐食させた場合」に近い扱いを受けるおそれがあります。
フローリング・カーペット
床のカビで借主の負担になるのは、こぼした飲み物や結露の水を拭かずに放置した場合です(別表1・17ページ)。カーペットに飲み物をこぼすこと自体は普通の生活で、その後の手入れ不足が問われます。
フローリングを部分的に直すときは、住んだ年数を考えません(22ページ)。全面を張り替えるほどの傷みなら、建物の耐用年数で負担が下がります。
窓際の床の黒ずみや、傷との違いは賃貸のフローリングの傷と退去費用でも取り上げました。
裁判ではどう判断されたか
ガイドラインには、カビが争点になった裁判例が載っています。結露を拭いていた借主は、責任なしとされた例があります。金額は判決があった当時の額です。
カビが争点になった裁判例(ガイドライン掲載の事例)
| 事例(裁判所・判決日) | 争点 | 判断 |
|---|---|---|
| 事例1(名古屋地裁 平成2年10月19日・60ページ) | 結露による壁クロスの汚れ | 結露は建物の構造が原因なので、特別な事情がない限り借主の責任にできない |
| 事例9(横浜地裁 平成8年3月25日・69〜70ページ) | 新築マンションのカビ | 手入れにも問題があったとして借主の責任を2割とし、修繕費15万5,200円のうち3万円を負担 |
| 事例23(枚方簡裁 平成17年10月14日・89ページ) | 結露によるカビ・臭い | 見える所の結露は拭いていたので過失なし。むしろ貸主の債務不履行とした |
| 事例26(川口簡裁 平成19年5月29日・92ページ) | 18年住んだ部屋のカビ | 手入れに問題はあったが、年数を考えるとクロスの負担はなし。下地のボード等は費用の20%を負担 |
新築のカビは2割の負担
事例9は、一審と控訴審で判断が分かれました。一審の保土ヶ谷簡裁は、新築で壁に水分が多かったことを理由に、カビを通常の損耗としています。
控訴審の横浜地裁は、同じ建物の他の部屋ではここまでのカビが出ていなかった点を重く見ました。カビが出た後の手入れにも問題があったとして、借主に2割の責任を認めています。
全額でも0円でもなく「割合」で分けた判断です。カビの請求は、建物側の原因と借主の手入れを比べて決まることがわかります。
長く住んだ部屋のカビは安くなるか
借主が払う場合でも、多くの部位は住んだ年数で負担が下がります。ガイドラインは、年数が長いほど借主の負担割合を減らすとしています(12ページ)。
事例26の借主は18年住んでいました。カビは手入れに問題があった結果とされましたが、壁紙の張替えに借主が払う費用はないと判断されています(92ページ)。
ただし、いつも0円になるわけではありません。同じ事例でも、下地のボードや天井の塗装は残存価値20%として借主の負担が残りました。掃除をしなかった分のクリーニング費は、年数を考えずに全額が借主の負担です(24ページ)。
カビの費用で、年数が効くもの・効かないもの
- 壁紙
- 6年で価値1円
- カーペット等
- 6年で価値1円
- 浴槽・洗面台
- 建物の耐用年数で下がる
- 下地・塗装
- 事例26では残存価値20%が残った
- 掃除の費用
- 普段の掃除をしなかった分は全額
- フローリング
- 部分補修は年数を考えない
- 畳表・襖紙
- 消耗品として年数を考えない
図:長く住むほど壁紙の負担は下がるが、掃除をしなかった分の費用は年数で減らない。
「カビは借主負担」の特約は有効か
契約書に「退去時のカビ除去費用は借主の負担」と書かれていることがあります。有効になるには条件があります。
ガイドラインは、通常の損耗まで借主に負わせる特約に3つの要件を挙げています(7ページ)。
- 特約が必要で、暴利的でないなど、客観的・合理的な理由がある
- 借主が、通常の原状回復を超える負担をすると認識している
- 借主が、その負担をすると意思表示している
最高裁の平成17年12月16日判決も、借主が負担する通常損耗の範囲が契約書に具体的に書かれているか、口頭で説明されて明確に合意していることが必要だとしています(事例24・90ページ)。
特約があるときに確かめること
- 「カビ」「水回り」など、部位や中身が具体的に書いてあるか
- 金額や単価の目安が示されているか
- 契約のときに、その特約の説明を受けたか
- 普段の掃除をしていても払う内容なのか、手入れを怠った場合だけの話なのか
「借主の故意・過失によるカビは借主の負担」とだけ書いた条項なら、もともとの原則を書き直しただけです。普通に暮らして出たカビまで払う根拠にはなりません。
カビを見つけたとき・請求されたときにやること
カビの費用で揉めるかどうかは、住んでいる間の記録でほぼ決まります。見つけた時点で知らせておくと、退去時に「放置した」と言われる余地が減るはずです。
住んでいる間にカビを見つけたら
- 日付が残る形で、カビと結露の写真を撮る
- 管理会社にメールや問い合わせフォームで知らせる(電話だけにしない)
- 結露は拭き取り、換気をする
- 止まらない結露は、換気設備の点検や修繕を頼む
請求書が届いたら
ガイドラインのQ17(45ページ)は、借主は原状回復費用の明細を求め、説明を求めることができるとしています。
- 明細で、どの部位を何㎡、どの作業で直すのかを確かめる
- カビの原因が建物側(結露・雨漏り・設備の不具合)でないかを見る
- 知らせた記録や、拭いていた写真を探す
- 壁紙なら入居年数を当てはめ、6年を超えていないかを見る
- 特約の文言を確かめる
- 話がまとまらなければ、消費者ホットライン188で近くの消費生活センターに相談する
退去前の掃除でどこまで費用が減るかは退去の掃除はどこまでやるかにまとめました。消費者ホットラインの案内は消費者庁のページにあります。
カビの費用を減らせるのは、住んでいる間の記録
- 見つけたら
- 写真を撮り、メールで管理会社へ
- 結露
- 拭き取りと換気を続ける
- 止まらない
- 換気設備の点検・修繕を頼む
- 明細
- 部位・面積・作業の中身を求める
- 証拠
- 知らせた記録と写真を示す
- 計算
- 壁紙は入居年数を当てはめる
図:知らせた記録があれば、退去時に「放置した」と言われる余地が減る。
よくある質問
Q1:北向きの部屋で、どれだけ拭いても結露とカビが出ました。
建物の造りが原因の結露なら、カビは原則として貸主の負担です。ガイドラインは、結露は建物の構造上の問題であることが多いとしています(18ページ)。拭き取っていたことと、管理会社に知らせたことを示せるようにしておいてください。
Q2:風呂のカビで「浴室クリーニング代」を請求されました。
普段の掃除をしていなかったなら、掃除をしなかった分の清掃費は借主の負担で、年数でも減りません(24ページ)。普段の掃除をしていたなら、退去後の専門業者による全体のクリーニングは貸主の負担です(21ページ)。特約に清掃費が書かれていないかもあわせて確かめてください。
Q3:カビが出ていた壁を、部屋全体まとめて張り替えると言われました。
借主が払う場合でも、範囲は㎡単位が望ましく、カビのある面を含む一面分までが限度です(23ページ)。色や柄をそろえるために他の面まで替える費用は、借主の負担にしません。6年を超えて住んでいれば、壁紙そのものの負担はさらに小さくなります。
Q4:入居したときから押入れにカビがありました。
入居前からある傷みは、借主が払うものではありません。入居時の写真やチェック表を探して、管理会社に示してください。見つからない場合も、入居した日付と、カビに気づいて知らせた日付を整理しておくと説明がしやすくなります。
Q5:管理会社に結露の相談をしたのに、何もしてもらえませんでした。
相談した記録は、退去時に借主を守る材料になります。貸主には部屋を使えるように直す義務があり(民法606条)、枚方簡裁の判決(事例23)は結露によるカビを貸主の債務不履行としました。メールの履歴を残し、改めて点検を書面で頼んでおくとよいでしょう。
まとめ
- 普通に暮らして出たカビは貸主の負担。手入れが悪く広げた分だけを借主が払う
- 結露のカビが借主の負担になるのは、知らせず、かつ、拭き取りもせずに広げたとき
- 風呂・トイレ・洗面台は、掃除を怠ったカビが借主の負担。掃除の費用は年数で減らない
- 壁紙は6年で価値1円。18年住んだ部屋でクロスの負担なしとした判決がある
- 新築のカビで借主の責任を2割とした判決もあり、全額か0円かでは決まらない
- カビを見つけたら写真とメールで知らせる。それが退去時の一番の証拠になる
カビの請求は「部屋全体の張替え」「浴室一式」とまとめて書かれやすい項目です。原因が建物側か、知らせた記録があるか、何年住んだかの順に照らし合わせてから話し合ってください。
免責事項
※本記事は民法の条文、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」とその掲載裁判例、賃貸住宅標準契約書(2026年10月時点で確認)と不動産仲介の現場で見てきた事例をもとに整理した一般的な情報です。費用の負担は、個々の契約書の特約とカビの原因・程度により異なります。個別の契約判断・法律相談は宅地建物取引士・弁護士・消費生活センター等の有資格者・公的窓口にご相談ください。

