「大家さんから急に出ていってほしいと言われた」「立ち退き料はいくらもらえるのか」——賃貸の退去をめぐって、入居者から最も相談が多いテーマの一つです。
結論から言えば、大家都合の退去は借主が一方的に従う義務のあるものではありません。普通借家契約なら、大家には「正当事由」が必要で、その不足を埋めるために支払われるのが立ち退き料です。本記事では、相場・内訳・法律上の根拠・断れるケース・交渉の順序までを借主目線で整理します。
立ち退き料の相場は、居住用の賃貸で家賃の6〜12か月分が一つの目安です。ただし金額は法律で決まっておらず、引越し費用や移転先の初期費用などをもとに、大家と借主の交渉でケースごとに決まります。
この記事でわかること
- 立ち退き料の相場は家賃の6〜12か月分が目安(法定ではなく交渉で変動)
- 大家は「正当事由」(借地借家法28条)なしに借主を追い出せないという原則
- 立ち退き料の内訳4項目(引越し実費・移転先の初期費用・家賃差額・迷惑料)の中身
- 借主が立ち退きを断れる/応じるべきケースの判断軸
- 普通借家と定期借家の違いと、立ち退き料が出ないケース
- 求められたときの交渉ステップ(即答しない・書面・専門家相談)
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立ち退き料とは:大家都合の退去で借主が受け取れる補償
立ち退き料とは、大家(貸主)の都合で借主に退去してもらうために、大家から借主へ支払われる補償金です。引越し費用や新居の契約費用など、退去にともなう借主の負担や不利益を埋める性格を持ちます。
なぜ支払われるのか。ここが最も大切な前提です。普通借家契約では、大家から契約を終わらせるには借地借家法が定める「正当事由」が必要になります。この正当事由が単独では足りないとき、立ち退き料を上乗せすることで正当事由を補強する、という位置づけです。
つまり立ち退き料は「出ていくご褒美」ではなく、借主が本来もっている居住の権利を手放す対価です。だからこそ、金額も「大家が決める額」ではなく、双方の交渉で決まります。
立ち退き料が問題になる主なケース
| 大家側の理由 | 立ち退き料の考え方 |
|---|---|
| 建物の老朽化・建て替え | 正当事由になり得るが単独では弱く、補償で補う例が多い |
| 大家自身や親族が住む | 使用の必要性が高ければ事由は強まるが、程度による |
| 収益改善・再開発で売りたい | 大家側の経済的都合が中心で、事由は弱いとされやすい |
| 借主の家賃滞納・用法違反 | 債務不履行による解除。立ち退き料は原則発生しない |
家賃滞納や無断転貸などの契約違反が退去理由の場合は、そもそも立ち退き料の話にはなりません。あくまで「借主に落ち度がなく、大家側の都合で出ていく」場面の補償だと理解しておくと、以降の交渉の見通しが立てやすくなります。
立ち退き料の相場|居住用は家賃の6〜12か月分が目安
立ち退き料の相場は、居住用の賃貸で家賃の6〜12か月分が一つの目安とされます。家賃10万円の部屋なら、おおむね60万〜120万円前後が提示の中心帯です。
ただし、これはあくまで過去の交渉例から見える目安であり、法律で決まった金額ではありません。同じ家賃でも、居住年数・移転先の家賃差・大家側の事由の強さによって、下は数十万円、上は目安を超える例まで幅があります。
- 移転先の初期費用(礼金・仲介手数料・保証料など)がいくらかかるか
- 新居の家賃が現在より高くなるか(差額を何か月分補うか)
- 居住年数や、その部屋でしか成り立たない事情があるか
- 大家側の正当事由が強いか弱いか(弱いほど補償で埋める必要が増す)
用途によっても水準は大きく変わります。次の比較で、居住用と店舗・事務所の目安の違いを押さえておきましょう。

参考として、店舗や事務所は営業補償が乗るぶん水準が跳ね上がり、家賃の数年分に及ぶこともあります。一方で居住用は、引越しと移転先確保にかかる実費が中心になるため、そこまでの高額にはなりにくい、という違いがあります。
立ち退き料の内訳|4つの費目に分けて考える
立ち退き料は、ひとまとまりの金額に見えても、中身は実費と補償の積み上げです。交渉では「総額いくら」ではなく、この費目ごとに根拠を示すほうが話が通りやすくなります。
賃貸の現場で見てきた交渉と、自分自身が7回引越しをして払ってきた実費をもとに、居住用で問題になりやすい内訳を4つに整理します。
内訳を1つずつ分解すると、請求できる根拠が見えてきます。順に確認しましょう。

- ① 引越し実費:引越し業者の料金、不用品処分費、エアコン移設費など。繁忙期と閑散期で1.4倍前後変わるため、見積書を根拠に出すのが基本です。
- ② 移転先の初期費用:新居の礼金・仲介手数料・火災保険料・保証会社利用料・鍵交換費など。初期費用は家賃の4〜5か月分に達することもあり、立ち退き料の交渉で最も見落とされやすい費目です。
- ③ 家賃差額の補填:新居の家賃が上がる場合、その差額の一定期間分(例:差額×12〜24か月)。同等の物件が近隣で高いときの現実的な負担です。
- ④ 迷惑料・慰謝料的な部分:引越しにともなう時間・手間・精神的負担への上乗せ。明確な基準はなく、事由の弱さを補う調整弁として乗ることがあります。
このうち①②は見積書や契約書で金額を証明できる「実費」です。まずここを固め、③④は事情に応じて上乗せする、という順で組み立てると、根拠のある請求になります。
正当事由とは|借地借家法28条の4つの判断要素
ここが借主にとって最も重要なポイントです。大家は、正当事由がなければ普通借家契約を一方的に終わらせられません(借地借家法28条)。
正当事由があるかどうかは、裁判所が次の4つを総合的に考慮して判断するとされています。
正当事由の判断で考慮される要素(借地借家法28条)
| 判断要素 | 中身 |
|---|---|
| ① 双方が使用を必要とする事情 | 大家・借主それぞれが、その建物をどれだけ必要としているか |
| ② 賃貸借の従前の経過 | これまでの契約の経緯・賃料の支払い状況・信頼関係 |
| ③ 建物の利用状況・現況 | 実際の使われ方、老朽化・耐震性など建物の状態 |
| ④ 財産上の給付の申出 | 大家からの立ち退き料の提示(他の要素の不足を補う) |
注意したいのは、「老朽化したから」「大家が使いたいから」という理由だけで、当然に正当事由が認められるわけではないという点です。あくまで①〜③を軸に総合判断され、それでも足りない部分を④の立ち退き料が補う、という関係になっています。
借地借家法26条では、期間の定めがある契約で大家が更新を拒絶するには、期間満了の1年前から6か月前までの間に通知することも必要とされます。通知の時期が守られていない場合、そもそも更新拒絶の手続き自体が整っていない可能性があります。
大家の求めに応じる義務があるかどうかは、この正当事由の強さと契約の種類で決まります。次の図で全体の判断を整理しましょう。

立ち退きは断れる?|応じるべきかの判断軸
「立ち退きは必ず断れる」わけでも、「必ず応じなければならない」わけでもありません。契約の種類と正当事由の強さで、借主の立場は大きく変わります。
普通借家契約で、大家の正当事由が弱い(単なる収益改善・売却目的など)場合は、借主がすぐに応じる義務は強くありません。焦って即答せず、条件を交渉する余地があります。
一方で、次のようなケースでは、借主側が譲歩を求められやすくなります。
- 定期借家契約で、契約期間が満了する(更新の予定がもともとない)
- 建物の老朽化・耐震不足が客観的に深刻で、大家の必要性が高い
- 家賃滞納・用法違反など、借主側に契約違反がある(立ち退き料も出にくい)
- 相応の立ち退き料が提示され、移転コストを十分カバーできる
逆に、大家に他の空室があったり、老朽化の客観的根拠が乏しかったりする場合は、借主の交渉力は相対的に強くなります。高齢・病気・子どもの学区といった移転が難しい事情があるときも、正当事由の判断で借主に有利に働くことがあります。
いずれにしても、断るか応じるかはその場で結論を出さないことが鉄則です。まずは大家の理由と契約の種類を確認し、必要なら専門家に相談してから返答しても遅くはありません。
普通借家と定期借家の違い|立ち退き料が出ないケース
立ち退き料の話に入る前に、自分の契約が普通借家か定期借家かを必ず確認してください。ここを取り違えると、交渉の前提が根本から変わります。
普通借家契約は、期間が満了しても原則として更新され、大家が終わらせるには正当事由が必要です。だからこそ立ち退き料が問題になります。
一方、定期借家契約(借地借家法38条)は、更新がなく、契約期間の満了で確定的に終了します。この場合、大家に正当事由は不要で、立ち退き料も原則として発生しません。契約時に「更新がない」ことを書面で説明されているのが定期借家の特徴です。
次の比較で、両者の違いを整理します。契約書の表題や「更新の有無」の記載で見分けられます。

ただし定期借家でも、契約期間の途中で大家の都合により解約を求められた場合は、話は別です。中途解約には合意や特約が必要で、状況によっては補償を求められる余地があります。契約書の中途解約条項を確認しましょう。
立ち退きを求められたときの交渉ステップ
最後に、実際に立ち退きを求められたときの動き方を、現場で見てきた「うまくいく順序」で整理します。焦って即答してしまい、交渉余地を自分から手放す——これが最も多い失敗でした。
大きくは3ステップです。順番を守ることが、根拠のある交渉につながります。

- その場で承諾せず、要求を書面・メールで受け取る
- 契約の種類(普通/定期)と正当事由の有無を確認する
- 内訳を計算し、必要なら専門家に相談してから交渉する
ステップ1:即答せず、要求を「書面」で受け取る
まず、口頭で「わかりました」と言わないこと。一度承諾すると、あとから条件を覆すのが難しくなります(国民生活センターにも同種の相談が寄せられています)。
「一度持ち帰って検討します」と伝え、退去を求める理由・希望時期・立ち退き料の提示額を、できるだけ書面かメールで残してもらいます。後の交渉や相談で、この記録が土台になります。
ステップ2:契約の種類と正当事由を確認する
次に、自分の契約書を開き、普通借家か定期借家かを確認します。定期借家の満了なら交渉の余地は限られますが、普通借家なら正当事由の強さが交渉の中心になります。
あわせて、更新拒絶の通知が借地借家法26条の時期(満了の1年前〜6か月前)に沿っているか、退去希望日までに十分な猶予があるかも見ておきます。
ステップ3:内訳を計算し、専門家に相談してから交渉する
そのうえで、引越し実費と移転先の初期費用の見積もりを取り、立ち退き料の内訳を具体的な金額に落とし込みます。新居の相場を早めに把握しておくと、家賃差額の主張にも根拠が持てます。
金額や正当事由で折り合わないときは、==法テラスや各地の消費生活センター(消費者ホットライン188)、弁護士など専門の窓口に相談==してから返答するのが安全です。交渉が決裂した場合は、簡易裁判所の民事調停や訴訟で正当事由が判断されることになります。
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よくある質問(FAQ)
立ち退き料について、よくある質問に答えます。
立ち退き料の相場はいくらですか?
居住用の賃貸では、家賃の6〜12か月分が一つの目安です。家賃10万円なら60万〜120万円前後が中心帯になります。ただし金額は法律で決まっておらず、引越し実費・移転先の初期費用・家賃差額などをもとに、ケースごとの交渉で決まります。店舗や事務所は営業補償が加わり、家賃の数年分に及ぶこともあります。
大家都合の立ち退きは断れますか?
普通借家契約で、大家の正当事由が弱い場合(単なる収益改善・売却目的など)は、すぐに応じる義務は強くありません。まずは即答を避け、退去理由と契約の種類を確認しましょう。ただし定期借家の期間満了や、借主側に家賃滞納などの契約違反がある場合は、断りにくくなります。
立ち退き料が発生しないのはどんなときですか?
主に3つです。①定期借家契約が期間満了で終了するとき、②家賃滞納・用法違反など借主の契約違反による解除のとき、③立ち退き料を支払わない旨をあらかじめ合意しているとき。これらの場合は、原則として立ち退き料の対象になりません。
正当事由とは何ですか?
借地借家法28条が定める、大家が契約を終わらせるために必要な理由です。裁判所は、①双方が建物を使う必要性、②これまでの契約の経過、③建物の利用状況・現況、④立ち退き料の提示、の4点を総合的に判断します。「老朽化した」「大家が使いたい」という理由だけで、当然に認められるわけではありません。
立ち退き料の内訳には何が含まれますか?
主に4つです。①引越し実費(業者料金・不用品処分など)、②移転先の初期費用(礼金・仲介手数料・保険料など)、③家賃差額の補填(新居が高い場合の差額分)、④迷惑料・慰謝料的な部分。①②は見積書や契約書で金額を証明できるため、まずここを根拠に固めるのが交渉のコツです。
立ち退き料はいつ支払われますか?
明確な決まりはありませんが、実務では退去(明け渡し)と引き換え、または退去直前に支払う取り決めが多く見られます。トラブルを避けるため、金額・支払い時期・支払い方法を書面(合意書)に残しておくことが大切です。口約束だけで先に退去するのは避けましょう。
立ち退き料の交渉は弁護士に頼むべきですか?
金額が大きい、正当事由で折り合わない、大家側が弁護士を立てている、といった場合は、弁護士への相談を検討する価値があります。費用が心配なときは、まず法テラスの無料法律相談や、各地の消費生活センターに相談する方法もあります。個別の法的判断は必ず有資格の専門家にご確認ください。
まとめ:立ち退き料は「権利を手放す対価」
最後に、この記事の要点を整理します。大家都合の退去は、借主が一方的に従うものではありません。 契約の種類と正当事由を確認し、根拠のある交渉をすることが、納得できる結果につながります。
- 立ち退き料の相場は居住用で家賃6〜12か月分が目安(法定ではなく交渉で変動)
- 普通借家では大家に正当事由(借地借家法28条)が必要。理由だけで当然に認められはしない
- 内訳は引越し実費・移転先の初期費用・家賃差額・迷惑料。①②の実費から固める
- 定期借家の満了・借主の契約違反では立ち退き料は原則出ない
- 求められたら即答せず・書面で受け・専門家に相談してから交渉する
退去が避けられない場合でも、移転先の相場と初期費用を先に把握しておけば、立ち退き料の交渉材料になります。まずは無料の一括見積もりで、引越しにかかる実費の目安を押さえておくところから始めるのが現実的です。
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※本記事は公開情報をもとにした整理です。立ち退き料の金額・正当事由の判断は個別の事情で大きく変わり、法律で一律に定められたものではありません。具体的な契約・立ち退き・損害賠償など法的トラブルの判断は、弁護士・司法書士・各地の消費生活センター(消費者ホットライン188)・法テラスなど専門の窓口へご相談ください。

