敷金返還に関するノウハウ    

 ここでの情報は、「入退去の注意事項」のうち、敷金返還に関する事項をピックアップしたものです。
 

1. 契約終了に伴う退去

(1) 退去通知

 契約終了に伴って退去する場合、契約書に定められた「退去通知時期」に注意しなければなりません。退去通知するかどうかは、別の表現をすれば、契約を更新するかどうかと同じです。一般的には、「借主から解約する場合には、○ヶ月前までに通告すること」となっていますので、その期限を守らなければなりません。

 ときおり、「解約通知時期の規定は、契約期間中の『途中解約』の場合の規定であり、契約終了時には適用されないのではないか?」という疑問を持つ人がいますが、一般の賃貸借契約では、家主側が更新拒絶しなければ、原則として、契約自体は存続することになってしまいます。

 所定の期限までに退去するかどうかの返事をしないでそのまま住み続けていると、法律上は、契約更新したとみなされてしまいますので、今度は、「更新料の支払い」をめぐって、家主との間でトラブルになる場合もありますので注意してください。

 トラブル予防のためにも、必ず、所定の通告期限を守ってください。

(2) 退去準備(引越手配・各種手続)

 退去通知を出せば、今度は、引越の手配や各種の手続を行うことになります。

 引越については、上手に引越するために、時期ごとに準備すべき事柄がありますので、付録の「引越チェックリスト」を活用してください。

 各種の手続としては、公共料金(電気・ガス・水道など)の精算、電話の移転手続、ゴミ処理手続、郵便局の転送届、新聞等の停止通知、そしてカギの返還があります。

 公共料金の精算は、引越予定日の1週間ほど前に各営業所に連絡し、退去日までの精算を行って下さい。精算を行わずに退去すると、各営業所では退去日がわからないため、退去日以降に使用された分の費用まで含めて請求されてしまいますので注意して下さい。

 電話は、「116」番に電話をかけ、移転手続を行って下さい。

 ゴミ処理については、退去日までにすべて終えるように、計画的に処分するようにして下さい。万一、ゴミ処理をきちんと終えずに退去すると、家主や管理会社から、高額のゴミ処理費用を請求される可能性があります。

 郵便局の転送届は、郵便局にある転送届の用紙に必要事項を記入して投函するだけで、1年間、新しい住所のところに転送してもらえます。

 最後に、カギの返還を行いますが、詳細については後述をご覧下さい。

(3) 清掃・原状回復

 退去日が近づいてきたら、原状回復義務の一環として、清掃しなければなりません。

 特約として、ハウスクリーニングを行うことになっている場合、「自ら清掃しても、あとから業者が清掃するから無意味じゃないの?」という声も聞きます。

 しかし、後々のことを考えると、清掃しておいたほうがよいでしょう。

 つまり、後の敷金返還で家主(管理会社)との間で揉めた場合、ハウスクリーニング特約自体、その有効性をめぐって争うことになる場合もあります。ちゃんとした清掃がまったくなされていなかった場合、家主(管理会社)側が、「入居者はまったく清掃義務を果たしておらず、やむを得ず業者を導入せざるを得なかった」という正当性を主張する根拠を与えてしまうからです。

 清掃は、油汚れの多い換気扇などは、特に念入りに行っておきたいものです。

 清掃以外には、借主の義務として、原状回復義務を果たさなければなりません。

 「原状回復義務」というのは、次項の「敷金精算」で詳しく述べるように、「入居当時の状態に戻す」ことではありません。自然損耗や経年劣化などによる汚損・破損などは、借主として責任を負う必要はないのです。

 しかし、「原状回復義務をめぐる高額請求トラブル」が多い現状では、できるだけトラブルを予防するための措置を実行しておいたほうがよいでしょう。

 そこで、まず、「自分でできる原状回復」を参考にして、できる限り、修繕・修復を行っておくようにしましょう。

(4) 退去時の立会い確認・原状回復同意書等

 「退去時の立会い確認」というのは、借主の責任で汚したり傷つけたりした部分をはっきりさせ、家主との責任分担を決めるための非常に重要な業務です。

 借主の原状回復義務は、通常、家主が預かっている敷金の中から行われます。つまり、家主が自分のお金で原状回復(のための修繕)費用を負担するのではなく、他人である借主のお金で修繕を行うわけです。

 従って、家主は、他人(借主)から原状回復費用を出させるために、「借主に費用を負担させる合理的な理由がある」ということを証明しなければならないのです。難しい表現を使えば、「(借主の修繕費用負担に関する)挙証責任は家主にある」ということです。

 しかし、横着な家主(管理会社)の中には、退去時に双方の立会い確認を行うのではなく、退去してしまってから、一方的に、借主の責任範囲を決めつけるという場合があります。

 このような横着な家主(管理会社)に対しては、「自分の責任範囲をはっきりさせるために、必ず立会い確認をしてほしい」と交渉してください。実際に、立会い確認をしてくれるようになればよいのですが、立会い確認してくれなかった場合でも、後日、敷金返還でトラブルになった場合、「家主としての義務を果たさなかった」という事実を明確に残すことができます。

 退去時の立会い確認を行う場合、入居時に作成した「入退去時室内点検表」を利用し、「入居時の状況」と「退去時の状況」の比較を行い、入居時になかった汚損・破損が、借主の原状回復の対象となります。

 その上で、その汚損・破損のうち、借主に、故意・過失・善良なる管理者の注意義務違反(自分の持ち物以上に大切に扱う義務違反)に該当せず、自然損耗・経年劣化に該当する場合は、借主は責任を問われないはずです。

 家主(管理会社)の中には、「修繕費用借主負担特約」などを根拠に、すべての修繕負担を借主に押し付けてくる場合がありますが、後述するように、そのような特約は認められない可能性が強いのです。

 立会い確認時に、「原状回復同意書」などに、署名捺印を求められることがありますが、借主として納得できない場合には、署名捺印してはいけません。(いったん、署名捺印すると、後から「あれは自分の本意ではない」と言っても認められないケースが多いからです。)

(5) カギの返還

 退去時の立会い確認が終了すれば、家主(管理会社)から預かったカギの返還を行います。このとき、家主(管理会社)の同意を得て作製していた合いカギがある場合も一緒に返還しなければなりません。

 なお、カギの返却は、家主(管理会社)との約束の日までに行わなければなりません。返却日を忘れてしまい、家主(管理会社)からの督促などによって返却することになった場合、遅れた分の日割り家賃を請求される可能性もありますので注意してください。

2. 敷金精算

(1) そもそも敷金とは?原状回復とは何か?

 敷金というのは、契約期間中に借主が家主に対して負担する賃料債務その他一切の債務の担保のために差し入れられた金銭のことです。つまり、滞納家賃や原状回復費用など、借主が負う負債を確実に支払ってもらうために、家主が預かっている「人質」のようなものです。

 借主が、家賃を滞納していた場合、借主は、「敷金から差し引いておいてくれ」などという権利は認められていませんので、いくら敷金があっても、家賃は必ず支払わなければなりません。

 借主の原状回復義務とは、法的には、「物件内に持ち込んだ家財道具などの撤去義務」(民法第598条・第616条)のことですが、家主(管理会社)の中には、「入居当時の状態に戻すこと」というように勘違いしている場合が多いので注意が必要です。

 法的には、借主は、故意(わざと)・過失(誤まって)により汚損・破損させた場合や、善良なる管理者の注意義務違反(自分のもの以上に大切に取り扱う義務違反)によって汚損・破損させた場合には、損害賠償責任を負いますが、自然損耗(通常の生活上でやむを得ずに発生した汚損・破損)や経年劣化(年月の経過によって発生した汚損・破損)については責任を負わないとされています。

(2) 工事施工単位、負担割合

 借主の責任によって修繕が必要になった場合、借主の費用で修繕することになりますが、「借主がどこまで負担すべきか?」ということが問題となります。

 例えば、壁のクロスの一部を過失で汚してしまった場合、借主は修繕義務がありますが、修繕義務があるのは、「汚した部分を含む壁の一面のみ」です。ほんの少しの面積しか汚れていなかったとしても、壁の一面については張替え義務を負うのです。

 これは、内装業者の職人さんが工事を行うための最小限度の単位であり、「工事施工単位(最小施工単位)」と呼んでいます。

 ところが、家主(管理会社)の中には、「一面だけを張り替えた場合には、色違いが発生するので、壁の全面を張り替えるので、全額を負担せよ」と言ってくる場合があります。

 しかし、借主に責任があるのは、「壁の1面のみ」であって、それ以外の面については、借主の責任はありません。

 それ以外の面の張替えは、「色合わせ」のためですが、「色合わせ」は、いわゆるグレードアップの一種であり、次の入居者確保のために、家主が行うものであるため、家主が費用負担すべきものです。

 さらに、借主が張替え責任を負う壁のクロスについても、家主として、一定期間ごとに張替えしなければならないため、借主の責任がない場合には、家主が張替え費用の負担を行わなければなりません。従って、借主が費用負担すべき場合にも、家主と費用の按分をするべきなのです。

 借主と家主が、どういう負担割合で負担するのかは、最終的には話し合いで決着をつけなければなりませんが、考え方の基準は、付録の「原状回復費用負担割合表」を参考にしてください。

 このような考え方からすれば、一般的に考えられている「長く住めば住むほど借主の費用負担が多くなる」のではなくて、「長く住めば住むほど借主の費用負担は少なくなる」のです。

(3) 敷金の返還時期

 敷金は、物件の明け渡し後に、借主の原状回復の費用負担を差し引いてから、返却されますが、未払いの公共料金などがある場合にも、差し引かれますので、通常、退去後の1〜2ヵ月後になります。

 もし、3ヶ月以上経過しているにもかかわらず、敷金の返還がないような場合には、すぐに家主(管理会社)に返還するように交渉しなければなりません。

 ときどき、「カギを返還したらすぐに敷金を返すべきだ」と考えている人もいますが、「敷金の返還請求権」は、退去後の借主に責任がある部分の原状回復など、一切の債務が完了したことが前提条件となりますので、公共料金などの精算確認を行う時間的な余裕も必要なため、退去と同時というわけには行かないのです。これは判例でもそういう判断がされています。

(4) 「修繕義務特約(修繕費用借主負担特約)」について

 本来、家主は、家賃という対価を得ている以上、借主に対して、「使用収益させる義務」を負っており(民法第601条)、家主は、使用収益させるための修繕義務を負っています。

 ところが、契約書の中には、本来、家主が負担すべき修繕義務を借主に転嫁させるような契約が少なくありません。

 一般に、特約があれば、原則として、法律上の規定よりも優先されることになりますので、このような「修繕義務特約(修繕費用借主全額負担特約)」が有効であるかどうかが問題となるのです。

 判例によれば、このような特約は、原則として認められず、認められるためには、「特段の事由」が必要とされています。

 「特段の事由」とは、次の3つの要件をすべて満たすこととしています。

A) 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること

B) 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること

C) 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

 つまり、よほどの特殊な事情がなければ、このような特約は認められないということです。

 なお、2001年4月以降に契約した場合には、消費者契約法の「消費者の利益を一方的に害する条項は無効である」に直接該当するので、この点からも、この特約は認められません。

(5) 国土交通省の「原状回復ガイドライン」について

 国土交通省(旧建設省)は、原状回復におけるトラブルが多いため、トラブル解決に役立てるために、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を発表しています。

 ガイドラインの概要は、付録に掲載していますが、問題は、ガイドラインはあくまで「指針」であるため、ガイドラインに法的な強制力がないことです。

 従って、「ガイドラインではこうなっている」というだけでは、家主(管理会社)を説得することができない場合が多いのです。

 しかし、ガイドラインの内容を知っているかどうかで、原状回復をめぐる交渉をうまく運べるかどうかのポイントとなりますので、できる限り、学習しておきたいものです。

(6) 原状回復工事請求書・明細見積書について

 さて、家主(管理会社)から、原状回復に関する工事の見積書や費用の請求書が送られてきたら、今度は、それらの見積もりや請求が合理的なものであるかどうかを調査しなければなりません。

A) 工事の「見積書」の場合

(ア) それは工事の明細まで書かれていますか?

 明細がなければ、明細を要求しましょう。

(イ) 意味不明の明細が入っていませんか?

 意味不明の明細は、内容を確認しましょう。

(ウ) 借主に責任のない工事の見積もりが入っていませんか?

 借主に責任がないと思われる部分ははずすように要求しましょう。

(エ) 工事の「単価」は相場の範囲内ですか?

 付録の相場表と比較して高すぎる場合は、「相場よりも高すぎる」ことを主張し、「相場以上の金額は支払わない」と言いましょう。

(オ) 工事の「面積」は妥当な広さですか?

 面積の算出方法を確認しましょう。また、工事施工単位を越える部分は拒否しましょう。

(カ) 家主の負担割合はどうなっていますか?

 家主の負担割合について確認しましょう。

(キ) 見積書の発行元はどこですか?

 家主(管理会社)の場合には、工事業者の見積書をすぐに送るように要求しましょう。ファックスがあれば、「いますぐファックスで送ってほしい」と言ってください。

 「すぐに送れない」という場合は、工事業者の見積もりに上乗せしている場合です。上乗せしていないのであれば、工事業者の見積書そのものを送付すればよいからです。

 後日、工事業者の見積もりが送られてきた場合には、工事業者に、上記の内容を確認しましょう。費用を上乗せしているような場合には、工事業者はきちんと答えられないでしょう。

B) 費用の「請求書」の場合

(ア) 費用の明細まで書かれていますか?

 明細が書かれていなければ、明細を要求しましょう。

(イ) 意味不明の明細が入っていませんか?

 意味不明の明細は、内容を確認しましょう。

(ウ) 借主に責任のない費用の請求が入っていませんか?

 借主に責任のない部分の費用は請求からはずすように交渉しましょう。

(エ) 請求書の発行元はどこですか?

 家主(管理会社)から発行されている場合には、工事業者の請求書のコピーをすぐに送ってもらうように交渉しましょう。「すぐに送れない」というような場合は、工事業者の請求に上乗せしている場合でしょう。

 もし、家主(管理会社)が「すでに業者に支払っているので支払ってもらうしかない」というように言えば、実際に支払ったはずの工事費用の領収書コピーをすぐに送るように交渉しましょう。

(7) 家主・管理会社との交渉の仕方

A) 事前にきちんとした知識・情報を得ていること

 まずは何はともあれ、「知識は力なり」です。交渉をうまく運ぶ最大のポイントは、どれだけ知識・情報を持っているかです。

B) なめられないようにすること

 借主が弱気だと、家主や管理会社の中には、頭からなめてかかってくる人もいます。相手になめられたままで交渉がうまくいくはずはありません。
 借主が学生の場合には、家主や管理会社は、毎年のように、退去する学生とやりあっている可能性があります。そして、学生が泣き寝入りすることが多いため、学生だということでなめられる場合が少なくありません。

 相手が、なめてかかっていると思われる場合は、ある程度までは、「なめられている真似」を行い、相手が油断して、相手の不利になるような言動を暴露しないかどうか様子をみますが、証拠集めができれば、なめられたままでいるのではなく、毅然とした態度で交渉に臨むようにしましょう。

C) 納得できない点はすべて問いただすこと

 わからない点や納得できない点については、「きちんと説明してもらわないと納得できない」と、毅然とした態度で説明を求めるようにしましょう。

D) 「証拠」が残るように工夫しておくこと

 口頭での交渉は、証拠が残りませんので、できる限り、録音するなどして、自分が有利となる証拠を残すようにしましょう。

E) 安易に署名捺印しないこと

 相手の言うままに、署名捺印してはいけません。いったん署名捺印すると、いくら内容自体が不当であったとしても、後から翻すことが難しくなります。

(8) 交渉がうまくいかない場合の対策

A) すぐに諦めてしまわない

 諦めは禁物です。逆に言えば、家主や管理会社は、借主が諦めてしまうように、あるときは脅迫まがいの大声を出したり、あるときはなだめすかしたり、またある場合には、家主の苦しい精神的な状況などを持ち出してくるかもしれませんが、請求自体が不当であると思われる場合は、諦める必要はありません。

B) 同じようなトラブルの相談事例を研究する

 インターネット上では、さまざまなトラブル事例について、その解決方法についてアドバイスしています。例えば、本ホームページの「よくある賃貸トラブルFAQ」(http://chintaifaq.net/)や「住宅ねっと相談室」(http://www.so-dan.net/)、「All About Japanおすすめリンク集」(http://allabout.co.jp/house/rentalhouse/subject/msub_trouble.htm?FM=mc)などを参考にして、参考になるアドバイスをゲットしてください。

C)   他の入居者と合同で交渉する

 家主や管理会社は、相手が「弱い」とみると、強気で対応する場合が多いのですが、逆に、相手が「強い」場合には、無茶な要求をすぐに取り下げる場合もよくあります。

 そこで、トラブル内容によっては、自分ひとりで交渉に当たるのではなく、他の入居者にも呼びかけて、他の入居者との連名(合同)で交渉に当たるようにしたほうが、よりよい解決ができる場合があります。

D) 保護者同伴での交渉に切り替える

 これも、上記と同じように、自分の立場を強くするための作戦のひとつです。この方法によって、なかなか解決しなかったトラブルがすぐに解決できたというようなケースもあります。



(9) 紛争の解決方法  → 「裁判以外のトラブル解決法」参照。